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ふくしチャンネルレポート

第5回 介護支援ネットの集い パート2
必見!誰でもわかる車いすのすべて

 「車いす」と一言でいっても、自走用、介助用、リクライニング式、モジュール式など、タイプは多種多様。
その中から身体に合う車いすを適合することは、かなり高度な技術を要します。“世界に一つだけの車いす”をつくり、利用者さんの笑顔と可能性を増やすためのシーティングについて、福祉用具のスペシャリスト「なお」さんがわかりやすく解説しました。

身体に合うことにより「できること」
なおさんPROFILE
神奈川在住
福祉用具専門相談員
福祉住環境コーディネーター

 車椅子導入時の三大要素には「移乗」と「移動」と「姿勢」があります。これは、車いすだけではなく、ポータブルトイレやベッドなど福祉用具を導入する際にも、最初にアプローチしていかなければならない要点だということを、ぜひ覚えておいてください。

 いろいろなタイプの車いすがありますけれども、最近レンタルで増えてきている「モジュール式」から、シーティングについてお話していきたいと思います。
「モジュール式」はみなさんご存知だと思いますが、上下前後のタイヤ位置、足台の角度や長さ、背もたれや座面の角度、奥行きなど細かい調節機能のついた車いすです。
この細部の調整が可能か不可能かで、身体機能面や日常生活面などに様々な弊害が生じてしまいます。本来ならば、身体機能的には自分でできることなのに、車いすが適合していないためにできなくなっている……例えば、長く座ることや自力走行などですね。
では、調整することにより「できること」についてみていきましょう。

 まず、移乗。せっかく広いトイレにリフォームしたとしても、足台が外れなければ便器に十分近づけませんよね。自力で移乗できるはずなのに、車いすが移乗方法に合っていないために介助が必要となってしまう。
また、肘掛が外れないと「ヨイショ」って一度立ち上がらなければなりませんよね。足台と肘掛、この両方を外す調整によってトイレはもちろんのこと、ベッドなどにも簡単に移乗動作ができるようになるんです。
 次に移動。車軸の位置やタイヤの大きさが合っていないことで、自分で漕ぐという動作に支障を生じる場合があります。肩が上がり過ぎて関節が痛くなったり、足で漕ぐ場合には腰が前に出て骨盤がねじれてしまったり……これらの小さな原因が「自分では漕げないんだ」という大きな心の問題に繋がることが、家族を含めてよくあるんです。

骨盤を安定させ、姿勢を保持することの大切さ
これが「すべり座り」。座面の長さや背もたれの角度、車軸の位置などが合わないことによって、全身の筋肉が緊張し、拘縮や変形の危険性を招いてしまいます。
どちらもバランスの悪い姿勢。
左は体幹が左右に傾き、右は座面が軟らかいため骨盤が沈んでしまっています。

 バランスが悪い姿勢というのを見かけるかと思いますが、ご本人の身体状況によって標準型の車いすでは、ずっこけて座ってしまっていることがよくあります。いわゆる「すべり座り」や「仙骨座り」といわれる座り方ですね。
 なぜ、すべり座りが起きるのかというと、座面がその方のお尻から膝までの長さに合っていない、かかとから膝までの高さや、背もたれの角度なども合っていないなど、いろいろな要因が挙げられます。
一見、この姿勢は楽なようにみえますが、なんとか座位を保とうとしているので、常にどこかに力が入っている状態か、体を預けっぱなしの状態なんですね。このまま放置しておくと、拘縮や骨盤が後傾してきたり、背中が丸くなってしまうような変形・褥瘡などの二次障害を引き起こす危険性を含んでいます。

 座るという動作には骨盤がとても重要な役割を果たします。骨盤が安定していないと、どういったことが起きるでしょうか?
ゆがんだ骨盤の上では、無意識にも体の中心を保とうとして背骨が側湾したり、左右にねじれたり、体幹が傾いてしまうことがあります。骨盤が安定していると、姿勢保持や褥瘡予防にもつながっていきますが、姿勢保持の重要性は、床ずれや変形を予防することだけに限りません。
最近、歯医者さんにお会いする機会がありまして、車いすのずっこけを直したら、嚥下や咀嚼にも良い変化が表れたという話を伺いました。誤嚥もしなくなって、食欲も出てきたそうです。
 以上のように、生活全般を通じて大切なのは、安定して座れる環境作りなのかなということが、ザッとですがおわかりいただけたと思います。

 現在、みなさんの姿勢がらく〜な感じになっていますけれども、その状態のまま腰に拳を入れてみてください。今までよりすこし楽になったかなって感じませんか?
これが「ランバーサポート(a)」、可動性の大きな腰椎を支えることで、理想的なS字カーブなどの姿勢を保持するものです。
 また、ずっこけてくると骨盤全体が後傾してきます。その時に平らなクッションあるいはクッションを使っていない場合などはよけいに滑りがちです。前すべりを防止する座骨前方からの支えが「アンカーサポート(b)」といわれるものです。このように、身体状況によっては車いす自体の調整だけでなく、付属品などでの調整も必要な場合があります。

何のための車いす?誰のための車いす?

 「家が狭いからたためた方がいい」、「車に積むから軽い方がいい」などの声をよく耳にします。これまでの車いすは、日本ならではの生活様式に合わせて作られ、安定性のないたわんだ布の上に座らなければならない状態をつくってしまいました。映画監督のいすやハンモックみたいな、たわんだ布の上に座るということは、健常者の私たちでもそんなに長く座っていられないはずなんです。そのたわんだ布に長く座らせてしまい、座れないなら寝たきりに……。「座れない」のではなく、長く座れるような車いすではないという場合も多くあるんです。
 レンタルなどの際にもご本人やご家族に十分お話していかなければならないことですが、たためること、軽いこと、車に積み込みやすいことを優先に導入してしまうのは、介助側に車いすを合わせているんだと、ぜひ心に留めておいてほしいな、と思います。

 値段的なことなど、その方の状況に合わせていくのはもちろんですが、何に車いすを合わせるのか、何がどんなふうにできるようになっていけるか、ということを第一に考えていただきたいです。福祉用具と介助方法のマッチング、福祉用具と福祉用具のマッチング、生活様式・住環境と福祉用具のマッチング、それにご本人とご家族の希望……福祉用具を身体に合わせるにはいろいろな要素が含まれます。どんなに身体に合ったシーティングがなされた車いすを使っていても、高性能なベッドに寝ていても、その中の一つのみが身体に合っているだけでは良いケア、良いQOLには繋がらないと、私は現場から学んできました。
 どんなに良い機能的な福祉機器でも、どんなに深い専門知識をもっていても、どんなに優れた技術をもっていても、そこに「思い」がなければ、心からの笑顔はいただけない……。そして適合はとても大切だと思いますが、「体」だけに適合しても日常生活の中での安心や生きがいは生まれてこないと日々感じています。
 「こんな機能を使うと、こんなことができるようになれますよ」と福祉用具が広げる生活の幅や自信、できる喜びから芽生える心の変化などのソフト面から車いすを選んでいくのも大切な適合かなと思っています。

見て、触って、試して、体感中
「へぇ〜、コレほしい!」
あちらこちらでこんな声が聞かれました。
「身体に合った車いすだと表情も変わるんですよ」と笑顔で語るなおさん。 1人が試すと、参加者が次々と質問をしていきます。
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