福祉系のケアマネジャーは、医療に対して敷居が高い、医者とは話しづらいというような苦手意識があるようです。
それが、医師とケアマネの病いに対する認識、構造の違いという問題に大きく影響してきます。病いの構造とは生活者の病気への意識のことをいいます。
例えば、脳梗塞後遺症という病名。脳梗塞と聞いてみなさんがピンとくるのは、片麻痺や構音障害などの症状だと思います。ところが、医師はちょっとめまいがある、しびれがあるなどの症状が続く70〜80才代の高齢者には、脳の血流障害からくる症状だとして、こういう病名をつけることがあるんです。
このように、医師の考えているイメージと、みなさんが病名から受けるイメージとでかなりの差があるんですね。
それでは、どのような視点で病いを捉えていけばいいのか。
共通のフレーム(枠組み)が重要となります。医師がどのようなつもりで病名をつけたのかというところまで、知っておく必要があるんです。
そこで、次のような認識の枠組みを大切にしてケアマネジメントに従事してほしいと思います。
病いの構造1
生命の分かれ道 |
・治る病気(急性期疾患)
・治らない病気(慢性疾患)
・助からない病気(不治の病) |
病いの構造2
判断の難しい病気 |
・救命措置の必要な病気
・一両日中に医療を要する病気
・しばらく様子をみていて良い病気 |
病いの構造3
比較的把握できる |
・肉体的な病気
・精神的な病気
・心身症 |
病いの構造4 |
・高齢者に多い病気
・若年者に多い病気
・年齢に関係ない病気 |
病いの構造5 |
・病いと認められない病気
・病いとみなされない病気(仮性痴呆など)
・病いにつくられてしまう病気(寝かせきりなど) |
病いの構造6 |
・家庭に受け入れられる病気
・家庭に受け入れられない病気(感染症など) |
病いの構造7 |
・予防できる病気
・予防できない病気 |
ケアマネが医師に「この利用者さんの気をつけるべきことは何か?」と医学的判断を求めるとき、最も大切だけど最も聞きそびれる項目があります。
(1)この症状、誰にみせれば良いのか?
例えば、何科なのか。「3日後に来てください」と言われたとして、「治っていない場合は、他の検査をするのか」、「他の科に回すつもりがあるのか」など、どういう思考回路でいわれたのかを知っておく必要があります。
(2)この症状は、何という病気によるものか?
主治医意見書に病名を書く欄がありますけど、あれを見ていてもダメです。3つしか欄がありませんし、重要な情報が漏れている場合があります。正確にはどういう病気か、併発症や合併症でどんなものがあるかなど、主治医意見書には出てこない事項を知っておく必要があります。ですから、これは医師に聞きただしていいわけです。病気の診断ができるのは、医師だけなんですからね。
(3)この病気はいつになったら治るのか?
予後ですね。見通しを知っておくということも大事です。
(4)入浴は可能か、可能ならその条件は? (5)移動させるのは可能か?その条件は? (6)趣味は楽しめるのか? (7)孫の結婚式には出席できるか?……細かいことですが、これら も重要なことですね
。
医療機関相手にびびってはいけません。事業所においても、ケアマネ個人においても「何を聞くべきか」を必ずマニュアル化しておくと良いでしょう。
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「医師に対する殺し文句はコレだ!」や「報復判定」についてなど、どんたく先生の実践的な講義に、約40名の参加者はメモを取りながら聴き入っていました。 |
最近は、ドクハラ(ドクターハラスメント)も取り沙汰されています。
患者さんに対して「アンタ自立にしかなんないから、意見書提出してもムダだよ」なんて言う。これはひどい。
被保険者というのは認定してもらう権利があり、意見書を書いてもらう権利もあるわけで、医者としては書く義務があるんです。
ケアマネに対しては「こんな簡単なことも知らないの?」とか、「勝手に主治医を変えておいて『また診てください』なんてどういう了見だ!」とか。
こんなドクハラにあわないために、医師を変えるときには必ず連絡しておくことです。
次に、アポイントメントの重要性。なんのかんの言っても臨床医というのは忙しいので、アポイントメントをとっておく。その際、何曜日の何時ごろだったら暇そうだという情報を収集して、医師別のマニュアルをつくっておくと非常に役立ちます。
それから、訪問の日時、内容について必ず事前連絡してほしいです。何について聞きたいのかを伝えれば、電話・FAXで済むかもしれませんからね。
ケアカンファレンスを開く場合に、忙しいから開けないとおっしゃるケアマネがいますけど、本当に多忙だけが理由なのでしょうか? 医師に対する抵抗感が原因ではないのかな?
実際には、協力的な医師を探す方が難しいので、ケアカンファレンスで一堂に会するというのは難しいことなのかもしれませんが……書面で参加、あるいは電話で聴取などの方法も取っていただきたいなと思います。
情報提供には双方向性、GIVE&TAKEが必要で、与えるだけでもダメ、取るだけでもダメ。
医者がどんな情報を求めているのかということを、必ずマニュアル化しておきましょう。利用者の一日の生活パターン(外出機会なども含め)、利用者の日常の食生活(好き嫌いも含め)、睡眠時間・睡眠サイクル、医師の処方箋以外で服用している薬、屋内環境(日当たり、室温、湿度)などですね。
ご本人や家族は、「これからどうすればいいかわからない」というのが一番の不安材料になります。情報提供の際、こういう手段がありますよと、これもマニュアル化して説明するといいですね。
これからの介護はケアマネジメント、相談業務がすごく大きなウエイトを占めてきます。要するに良い介護というのは、日常の困りごとを解決する手段ですから。
最後に、言葉を大切にするケアマネになってください。
利用者に対して、「アンタとは地獄のそこまで付き合うよ」などというのは許されませんよね。
また、家族に「まだ家族で介護できるでしょ?お母さんを姥捨て山に入れたいの?」、「褥瘡ができるのは家族の責任です」なんていう……これらすべてケアハラ(ケアマネジャーハラスメント)です。
要介護者・要支援者と、医療従事者との間を仲立ちするのがケアマネだと思います。
お互いの意思疎通のためにも『マニュアル化』が大切なんです。マニュアルをうまく活用し「先生にしかできないんです!」というセリフで医師をおだてながら、良い介護に繋がるケアマネジメントをしてほしいと思います。
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