|
土谷さなえ
氏
北九州市サービス
ケアマネジャー・介護福祉士
義父を2年間介護したことがきっかけで、福祉の世界へ入る。
|
高室:高齢者の住環境には不都合なところがありますよね。
土谷:今まで私が関わった住宅改修でも、本当にさまざまな弊害がありました。
独居の75歳女性が家で転倒し骨折、2か月の入院で4点杖歩行が可能となり、在宅生活に戻られることとなったケースでは、遠方のご家族に「また転倒するのではないか」という不安感が強かったこともあって、まず、玄関、部屋の出入り口、トイレ内、浴室の出入り口、浴槽の出入りなど、動線に従って手すりの設置を考えました。
また、浴室のドアが内開きなので、将来的に要介護変化があったときに対応できるよう考慮し、「折れ戸にしましょう」と提案しました。
ところが、ご本人が大事にされていたマンションだったので、住宅改修することに抵抗があったんです。福祉機器事業者が見本をみせながら説明を重ねたことにより、納得していただくことができましたね。
北之口:母が転倒したときに、反省した点があります。棟続きで同居しているのに、母親の生活パターンをまったく知らなかったんです。ある程度、高齢になりましたら、そばに住む者としては把握しておく必要があると痛感しました。
また、「介護保険を利用して手すりなどをつけたらどうか」と提案したんですが、母は「そういうものの世話にはなりたくない!」と。母の思いも尊重し、「世の中一般の通例からみて、どのようなものが必要なのかを診断してもらうつもりでみてもらったらどうか」と言い方を変えたところ、母も納得し、手すりをつけることができました。
|
15年前から福祉住環境整備に取り組み、事例集「まさか、私が…」の著者としても有名。
|
武藤:土谷さんの事例ですが、マンションの場合、浴槽はユニットバスになりますよね。浴槽の出入りには、バスボードに腰掛けて入る方法が多いと思いますが、大腿骨骨折の場合、脚が前に上がらないんですよ。人それぞれ違いますけど、後ろにのけぞってしまうことが多い。
ですから、手すりはバスボードの前につけるのではなく、後ろにつけるのがいいんです。
もう一点、浴槽の出入り口の段差にも縦手すりをつけると思いますが、これは1本ではなく、平行に2本つけることを試してみてください。安定し、高い段差でも超えられるようになりますよ。
高室:北之口さんがおっしゃったように、住環境整備には価値観やこだわりなど、大きく関与します。実際、その方一人ひとりの「暮らし方」が重要なポイントになると思うんですよ。
武藤:やはり、一番気をつけているのは、その方が何を要求しているかということ。家の中で一番何がしたいのかという要望を必ず聞きます。
土谷:私たちは、生活パターンを確認してから、動線をみて、何ができるかを探すんです。できるものを尊重しながら、できない部分の援助、支援をしていきます。
高室:できることとできないことによっては、住宅改修しなくても、福祉用具でできることもありますからね。
武藤:福祉用具との組み合わせが一番です!
単なる住宅改修の知識だけではなく、今日展示されているような機器の知識をどれほどもっているかによって、その方に合うものを提案できると思います。
高室:その人の「暮らし方」、いわば「その人らしさ」をどのように引き出すかという点で苦労されていることはありませんか?
土谷:最初にアセスメントをしますが、一度ですべてわかるわけではありません。何度も何度も足を運ぶことで、いろいろなニーズを発見できるんです。トイレのドアが開けづらくて困ってるなどということを、ボソボソっと話してくれることも多くありますしね。
武藤:私は、自分が気づいた点は「不便ではないですか?」と確認していますね。言われてみれば……と改めて認識されることもありますので。
|
|
高室:つぶやきが、意外と大事なヒントになるんですよね。
また、危険を予測して、あらかじめ伝えておくということも、専門職に必要な配慮だと思います。
個別の「暮らし方」があるわけですけれども、私たちが考えなくてはならないのは、それぞれの「暮らし方」を元気なうちにどう確立するか、そして、介護を要する状態になっても、自立した暮らしができるかどうか、ということでしょう。
会場のみなさんの中で、そういったことを経験されている方はいませんか?
参加者:4年前に体調を崩し、要介護護1、2と認定された私の母の住宅改修で感じたことです。
古い家であちこちに段差があるものですから、手すりをつけることを勧めたんですが、母は嫌がりました。緑内障で、左眼の視野が一部欠損しており、電車に乗った際、手すりをつかみ損ねて怖い思いをしたことが、手すりを敬遠する原因になっているようです。そこで、無理に慣れない手すりをつけるのではなく、母が好きな家具を手すり代わりに工夫してみようと考えました。本人も気に入ったようでニコニコ過ごしています。
現在、古くなった天井や玄関などを改修しているところなんですが、大工さんが、「虫歯にならないように歯を一生懸命磨くでしょ?それと同じで手すりも予防ですよ」と仰ってくれたんです。
本人も納得してきているので、もう少ししたら手すりをつけようと思っています。一つの効用がわかれば、次に広がっていくものではないでしょうか。
高室:今のお話には、いろいろなヒントが詰まっていましたね。
やはり、その方に合った福祉用具や住宅改修を考えるように、その方に合った言葉がけも大事です。
武藤:私の場合は、できる限り絵を描いています。それまで何度も言葉で繰り返し説明していたものを、絵を描くように変えてからすぐに理解していただけるようになりましたね。
土谷:業者の男性2〜3人が、取り付け位置に手すりをもって両端で支えてくれるんです。設置前に試用することで、使い心地などを実際に理解してもらうようにしてます。
高室:なるほど。言葉で伝えるのは大変ですので、そういったコミュニケーションの技が必要ですよね。
私の知り合いのケアマネは、ケアプランを立てるときに模造紙をもっていくそうです。その場でマジックでどんどん書き込んでいく。こういう工夫はすごく喜ばれるんだといってました。
高室:最後に、福祉住環境コーディネーターに、またこれからめざそうとしている人たちに一言お願いします。
武藤:教科書だけに頼っていては何も発展性がないと思います。いろいろな症状に合った、その人に合った自分なりのアイデアを出して、つくって、提案してほしいと思います。
よく建築業界では「新築を立てられるようになってうれしい」などと言ってるのを聞きますけど、私は「住環境整備をして、これができるようになった」と、喜んでいる姿をみる方がうれしいです。
土谷:やはり、「こうしなければならない」という観念的な見方をするべきではないと思います。その人の動きを見て合わせるという勉強をすることが一番だと思いますね。
高室:北之口さん、やはり福祉住環境コーディネーターのいい点は、いろいろな人がいる、『職種がバリアフリーである』ということですよね。
北之口:高室さんが基調講演でも述べられたように、受験者の幅が非常に広く、私どもの実施する他の試験とはかなり色合いが違います。
福祉住環境コーディネーターの資格がビジネスにできるのか、できないのかという点で悩ましい問題はありますが、ある人が調べたところによると、9割が教養派だという統計が出たそうです。9割という数字はにわかに信じがたいですけれども、いずれにしても自分もしくは関係のある高齢者などのために学ぶという方が多いことも、他の試験と決定的に違う点であると思います。
高室:協会ができてまだ2年。今回のようなタウンミーティングを全国各地で実施しているところでありますが、1万人の会員のみなさんに応える活動をどうやっていけばよいのだろうかと、悩みながら進めています。
みなさん自身も横の連携を取りながら、協会の会員の1人として動き、情報交換および交流を深めるなど活動していっていただければ、と思います。
|