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21歳のとき、ハングライダーの事故で頚椎を損傷。車いすで外出するための情報の少なさや、役に立たない情報に疑問を感じ、自らバリアフリーマップの制作を始める。 |
バリアフリーマップ以外に、ユニバーサルマップ、福祉マップ、ふれあいマップ、ハートフルマップなど、いろいろな名称で呼ばれていますが、私のような車いすに乗っている人や視覚障害者、聴覚障害者が外出する際、より便利に安全に出れるようにする地図のことをいいます。
最近では当事者のためだけではなく、いろいろな要素としてバリアフリーマップが使われるようになりました。
特にここ2〜3年は、「緊急雇用対策」で取り組まれるということをよく聞きます。それから、学校で差別問題などの理解を深めるために、段差や点字ブロックなどを調べてバリアフリーマップを作るという授業もあるようです。
会社のスタッフがバリアフリーマップの保有数を調べたことがあります。3240市町村のなかの3150件にメールで問い合わせてみたところ、回答を得られたのは2121件。そのなかで「マップありますよ」とお返事があったのは277件。8・5%とそんなに高い数字ではないですけど、各都道府県に必ず1つはあると考えてよいようです。計画中の市町村も53件ありました。
では、実際どれくらい利用されているのかというと、バリアフリーマップ自体が障害者の数ほどありませんので、使いたいと思った人の手元にすべて届くほど配布されていないのが現状です。
これまでマップを作ってきたなかで、またいろいろなマップを見てきたなかで感じてた点から、いくつかお話します。
まず、各施設ごと情報量に差があり、紙面のスペースもありますので、ある程度、型にはめたマップにならざるを得ないんですね。そうすると、スロープや駐車場を表すアイコンや絵文字が、小さくて見づらくなってしまう。つまり、作業性重視のデザインになってしまうわけです。
それから、予算ありきの内容や納期、冊数。福岡県のマップは、フルカラーで立派なものなんですが、3000部しか作られていないので、公共施設や障害者団体のところにしか置いていません。各個人が見たいと思ったら、そこに行かなければならないんです。
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バリアフリーマップの調査は、ボランティアだけでは動きません。
ただ、内容に関しては理解のある人に協力してもらうのがベストですね。 |
次に、内容が統一されていません。同じ項目なのに、絵文字やアイコンの色も違えば、形もバラバラ。紙面のマップはおそらく県内に住んでいる人しか見ないので、違っていても問題ないのかもしれませんが、インターネットの場合だと日本全国の方が見ることになります。そうすると、特に見にくいと感じられるでしょう。
調査方法も統一されていません。誰がどんな調査をしたのかが明確にされていないために、調査の基準が不明確で信用性がない。例えば、同じ入り口なのに「平坦」と「スロープ」のマークが両方ついていることがあるんです。もしかすると、北側と南側に入り口があるのかもしれませんし、平坦な入り口を入った後にスロープがあるのかもしれません。実際に行く当事者の立場で考えると、「どっちなの?」ってなります(笑)。
これらを考慮した制作の注意点としては、アイコンや絵文字だけの情報だけではなく、注釈として文字の情報を入れることが挙げられます。その代わり、たくさんの情報量を載せられないというデメリットも生じますが……。
また、施設全体の写真が入ってるものも多くありますが、それよりも入り口の写真などをズームアップしてほしいですね。
それから、調査時に共通の観点で調査できる人材を確保すること。例えば、道路にある溝蓋(グレーチング)は、穴が大きいと車いすの前輪がはまって危険なんです。調査員の観点が統一していないと、穴が小さくはまらないものでも「溝蓋あり」と記入されてしまいます。
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畑間さんと、司会の「地図の資料館」益田氏(左奥)が収集した、全国各地のマップが参考資料として使われ
ました。一度にこれだけの資料をみる機会は希少です。 |
基本的にマップによく載るのは、公民館などの公共機関や、優れた施設が中心になります。これはマップの作成費用が行政負担になるためなんですね。
でも、実際皆さんがどこかに行きたいと思ったときに知りたいのは、「あそこのレストランは何がおいしんだろう?」など、生活に密着した情報が多いのではないでしょうか。
公共の情報のなかに、そういったものを載せると広告になるという面もあって、行政としてはやりにくいんでしょうが、それではユーザーの意見や、立場に添ったものにはなりませんよね。
また、先ほども申し上げましたように、ほとんどのマップは県内に住んでいる人が対象です。旅行者や隣県者向けに渡せる情報が、非常に少ない。
県外の情報は本当に必要ないのか?ということを視野に入れて、観光や宿泊用を別冊にしてつくることも考えてもらいたいですね。
作成するにあたって、まず最初に考えるべきことは、障害のレベルを明確にして、どんな人をターゲットにするのか――つまり、設置基準の表示です。
障害と一言でいっても多種多様です。すべての人に使いやすいものを作るのは、不可能だと思ってください。
私たちがよく使うのは、「車いすの人=自力走行ができて1/12の勾配が上れる人」や「杖歩行の人=片杖つきの人」などと定義する方法です。少しでもこういう表記があると、見た人が自分の障害と比べて想像することができるんです。
それから、抽象的な表現は避けてください。例えば、「緩やかな勾配」、「急な勾配」という表現があります。一番ベストなのは、角度を入れた表記ですが、私たちは1人の介助で押せるくらいの勾配は「緩やか」、1人が後ろから押して、もう1人が前から引っ張らないと上がれない勾配は「急」、という注釈を入れています。
そして、魅力的な内容で購買意欲をかきたてましょう。
通常、マップは無償で配られますが、本当にほしいものであれば買うのではないでしょうか。逆に、お金を出してでもほしいと思った人には、手に入るような仕組みのほうがいいのではないか、と思ったりします。
私たちが提案しているのは、CDに施設の情報を音声で入れてもらう方法。これなら、点字が読めない視覚障害者にも利用できますし、今はCDプレーヤーも普及してますからね。より多くの人を対象にしたマップが、安い価格でできると思います。
・調査基準の表示
・抽象的な表現は避ける
・デザインや効率を優先させない
・魅力的な内容で購買意欲を生む
・予算内でできる最善の策を模索
・利益の生まれる仕組みをつくる
・無駄な人件費はかけない
・基準となる企画の統一
・誰でも調査可能なテンプレート
・一般に入手しやすい道具を使う
・当事者または関係者が参加する
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つまり、予算内でできる最善の策を模索しましょうということです。マップの制作は予算が厳しくなかなか採算ベースに乗りません。
あくまでも参考ですが、調査員1日の平均調査件数というのは移動時間を入れますと約5〜6件です。施設1件の平均単価は印刷費用などを入れて約10,000円。点字印刷であれば、安いところでも1ページ1000円かかります。
可能かどうか難しいところですが、利益の生まれる仕組みをつくっていき、利益を次の年度の費用に充ててもいいのではないかと思います。
最後に、必ず当事者、関係者が参加するようにしてください。またその際、どんな人が関わったのかということを明記してほしいと思います。団体ばかりではなく、できれば一般ユーザーにアンケートを出すなどすれば、より行きたいところに行けるマップができるのではないかと思います。
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