高齢者だけでなく、医療が必要な障害者や小児のニーズも
「療養通所介護事業所さくら」(以下「さくら」)には、高齢者だけでなく小児や20代、30代の若い世代もいます。前者は介護保険、後者はモデル事業で利用しています。
取材に訪れた日には、気管切開(喉仏の下付近で気管を切開し、気管内にカニューレを入れて換気を行う)、在宅酸素(自宅に酸素供給装置を設置し酸素吸入を行う)、胃ろう(胃に直接栄養を補給する)、24時間パルスオキシメーター(血液中の酸素量を測定する機器)という医療的管理が必要な、のんちゃんという3歳の女の子の利用日でした。
医療ニーズが必要な小児も「さくら」を利用しています
「さくら」のスタッフは、のんちゃんに、医療機器の管理や呼吸リハビリ、離脱訓練、沐浴、リハビリテーション、遊び、散歩などのケアを行っています。
のんちゃんはこの日、発熱し、担当看護師の上村さんをはじめとする看護師が、体温はもちろん、室温も低めに設定するなど気を配っていました。医療ニーズが高い人の場合、室温などの環境が体調にもたらす影響も少なくありませんが、個室なので各利用者の体調に応じて調整することができます。
小児のなかにはチアノーゼ(呼吸機能が低下し、血液酸素濃度が下がるために皮膚や口唇、爪などが紫色になる)を起こすこともあります。
通所療養介護の看護師は利用者のこうした体調の変化を見逃さないことが大切で、そのためには「利用者の通常のときのことを知っておく必要がある」と「さくら」の管理者で医療法人偕行会在宅医療事業部運営局長の当間麻子さんは言います。
「さくら」では医療ニーズが高い小児から高齢者までの利用者のケアを行います。アットホームな雰囲気でも、看護職、介護職は常に利用者の体調に気を配る緊張感が求められます
「さくら」を利用する小児の親は、普段の様子を知る看護師がいることで安心して我が子を任せられます。
ちなみにのんちゃんはもう4人兄弟がいます。ひとりの兄弟もダウン症のためケアが必要です。母親からは、「健常な子と関わる時間がもてず、学校行事などにも参加できない」という相談を受けたといいます。しかし、ケアが必要な子供が通所療養介護を利用することで、その時間はゆとりももてるようになります。
また小児がいることで「さくら」を利用する高齢者の表情が和むこともあるといいます。
あらゆる年齢の人が利用できるようにしたい
通所療養介護の今後の課題として、当間さんは「対象者の範囲の拡大」と泊まりのサービスの導入など「ニーズに応じた機能への変化」を上げています。
「対象者の範囲の拡大」の問題では、vol.13(期待される療養通所介護(2))で紹介したとおり、当初の「難病またはがん末期の状態にある者」の限定がなくなりました。当間さんは、「今後は小児や若年層など、あらゆる年齢層への拡大を目指したい」と言います。
当間さんによると、現在、在宅の超重症児<0〜4、5歳のNICU(新生児集中治療室)退院児>の在宅支援をすすめるために、療養通所介護が必要であることのモデル事業を申請中だとのこと。
「高齢者の問題もさることながら、NICUから退院する子どもたちとその家族を支えるサービスが全くありませんので、なんとか療養通所介護が利用できるようにしたいと申請しました。超重症児の訪問看護を提供できるステーションも少ない現状です」(当間さん)。
「さくら」の利用日には各自が普段使っている経管栄養剤や医療器具などを持参します
収納ケースには、各利用者の生活に必要なものが引き出しごとに収められています
医療、介護ニーズが高い人を在宅で支えるための課題
平成18年度の医療保険制度の改正により、在宅ケアと在宅医療の中心的役割を担うために在宅療養支援診療所が設けられました。しかし、届け出はしていても実際に稼働していない診療所もあるなど情報公開が充分になされていない現状もあります。
「病院で働く医師や看護師はまだまだ、在宅療養についての認識が浅く、とにかく在院日数の短縮に向けて、患者や家族に十分な支援もせず在宅への移行を半ば強制的にすすめる(患者や家族は少なくともそのような認識)傾向が強く、その矛盾が在宅医療・療養の現場に押し寄せています。そのような状況の中で、私たちは理想論で在宅ケアを語っても何ら問題の解決にはなりません。いかに私たち自身が主体的にその現象を捉え、患者や家族を中心に据え、フォローしながら病院に働く医療職に実践的に、そして教育的観点からかかわるかという課題が多くあります」と当間さんは話します。
医療・介護ニーズが高い人を在宅でどう支えていくか。
この課題を考えるとき、私達は医療、介護だけにとどまらない視点で考えていくことも必要でしょう。
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