今年2月より、難病またはがん末期の人に限らず利用可能に
2006年4月に創設された療養通所介護は、手厚い医療が必要で、一般の通所介護(デイサービス)ではサービスを行うことが難しいと考えられる利用者を訪問看護ステーションと一体、あるいは密に連携を取りながら、日中の一定時間ケアするほか、一部の事業所ではオプションとして、泊まりのサービスを提供しているところもあります。
療養通所介護の普及、推進を目的とした「療養通所介護推進ネットワーク」の調査によると、事業所の数は、今年4月現在、全国で39カ所にのぼっています。
当初、厚生労働省ではその利用者を、重度要介護者であって「難病またはがん末期の状態にある者」に限定していました。
しかし、対象者以外の利用者や家族の方から「どうして自分たちは利用できないのか、介護保険のサービスなのに病名で差別されるのはおかしい」という声があがるほか、関係者からも、「疾病が限定されることで利用者の確保が困難である」との声もありました。
こうした背景もあり、平成19年2月、厚生労働省は重度要介護者で医療ニーズの高い人であれば「難病またはがん末期の者に限らず、対象とすることができる取扱いとする」旨の通知を出し、この問題は解決しました。
療養通所介護の人員配置は利用者:看護・介護職員=1.5:1以上と手厚く、専従の常勤看護師を1名以上配置することとされています。定員は5名以内で、部屋面積は一人あたり8m2以上で専用の遮蔽された部屋であること、また管理者は常勤看護師で訪問看護の経験者であること、併設の訪問看護ステーション管理者との兼務も可能とされています。
このほか、緊急の対応医療機関を定めること(併設、隣接、近接)、安全・サービス提供管理委員会を設置すること、療養通所介護計画と訪問看護計画は整合性を保つこと、予測できる病状の悪化など、その対応策をあらかじめ利用者ごとに策定すること、および主治医・緊急時対応医療機関との連絡体制を利用者に文書で説明することなどが定められています。
訪問看護ステーションから「走って行ける距離」に
療養通所介護事業所さくら
取材に訪れた「療養通所介護事業所さくら」(名古屋市、以下「さくら」)は、平成18年4月1日に開設しました。
現在は月曜日から金曜日の週5日サービスを行っています。定員は5名で、このなかには介護保険対象外の利用者も各日1名含まれています。
スタッフは管理者1名、訪問看護ステーション兼務の常勤看護師1名、非常勤看護師2名、ヘルパー1名の体制で、必要時、訪問看護ステーション所属の理学療法士や作業療法士がサービスを提供することや、訪問看護ステーションの看護師が応援に入る場合もあります。
運営主体は医療法人偕行会で、同法人の「名古屋共立病院」(24時間緊急外来応需)からほど近い距離にあり、利用者の体調に異変があったときなども安心です。また、利用者の普段の様子を知る訪問看護師がいる「訪問看護ステーションきょうりつ」からも「走って行ける距離」にあります。
ちなみに、取材時も、その日の利用者の薬について疑問が生じたため、療養通所介護の看護師が訪問看護ステーションに「走って」確認しにいくという光景が見られました。
朝9時頃、利用者が到着。人工呼吸器をつけている難病の方です。移動中は看護師が1対1で看護師が見守っています。車から降りるときは運転者も安全に配慮しています
設備投資を抑える工夫をしながら家庭的であたたかな雰囲気に
「療養通所介護事業所さくら」のリビング。床を張り替え、リサイクルの収納棚を使うなど、「手づくり」の工夫が感じられる空間からはあたたかさが伝わります。 |
「さくら」へようこそ!利用者の中には小児もいることから、室内の飾り付けにも気を配っています。 |
庭には目を楽しませてくれる草花が。室内からも眺めることができます。テラスにはガーデンテーブル&チェアが置かれています。
「さくら」の事業所は、法人の既存施設を転用した民家で、アットホームな雰囲気です。
送迎は車いす対応の軽自動車と、リクライニング車いす・ストレッチャー(寝台)対応の福祉車両、計2台で対応しています。
一般の通所介護の送迎の場合は、利用者数名が同乗し、運転者とケアスタッフが同乗するケースがほとんどですが、利用者の医療ニーズが高い療養通所介護の場合、利用者それぞれに疾患が異なり、移動中も見守りのほか、医療器具や装具の管理が必要なため、基本的に運転手のほか、看護師1名が同乗します。
利用者のなかには、胃から直接栄養を補給する胃ろうなど、口からの食事ではなく、カテーテル(管)を通じ、高カロリー輸液で栄養を補給している人もいます。口から食べられる人の食事については、法人のキッチンで調理、関係者が持ち寄った陶器の器を使っています。
吸引器などの医療機器も「在宅用」が使われています。医療機器ひとつみても、病院ではなく「在宅の延長」としての空間であることを感じます。
また、入浴をする際の浴槽は一般の住宅で使われる浴槽で、必要に応じて吊り下げリフトや訪問入浴槽を利用しています。
「在宅酸素などの医療機器などは、最新のものではなく、モデルチェンジする前のバージョンの機種をメンテナンスしたものをメーカーから安くリース契約しています」と、医療法人医療法人偕行会在宅医療事業部部長で、「さくら」の管理者でもある当間麻子さんは話します。
ちなみに、同事業所の賃貸料は15万円、送迎車のリース料金は軽自動車が3万6000円、福祉車両が6万8000円です。送迎運転者は2名おり、それぞれ時給1600円で、月曜日〜金曜日に朝夕各2時間ずつ勤務しています。
当間さんは前述の「療養通所介護推進ネットワーク」の代表もつとめています。同ネットワークには、療養通所介護の開設が困難な理由として、「看護師不足」、「スペースの確保が困難」、「収益性が低いため、設備投資ができない」、「送迎、食事、浴室などの問題がある」といった声が寄せられているようです。
民家を安くリース契約をする、同法人のサービスで活用できるところは活用する、医療機器を安く譲り受けるといった「さくら」が行っている工夫は、スペースの確保や設備投資の不安をもつ事業所にとって、参考になるのではないでしょうか。
カテーテル管理が必要な認知症の女性も利用
平成19年1月現在「さくら」の利用者は介護保険対象者が11名(ほか3名入院中)、医療保険対象者は5名です。医療保険対象者については、現在、厚生労働省医政局看護課のモデル事業で行っています。
「さくら」でご利用者の到着を待っていると、一番始めに到着したのは、脳梗塞後遺症で重度の認知症の女性でした。さらに、膀胱留置カテーテルの管理も必要です。
陽が差し込む窓の近くで。自宅とは異なる場所で過ごすことは心身の刺激にもなります。
彼女は家族と同居をされているようですが、カテーテルが汚れるなど管理が不十分になってしまうこともあるといいます。この女性にとって療養通所介護を利用することは、ご自身の閉じこもり予防やご家族の休息、さらにカテーテルの管理を行い、感染予防に努めるという点においてもよい影響がもたらされているようです。
「さくら」を利用している方のご家族の声が聞きたいと思い、ご近所に住む利用者のお宅のお迎えに同行させて頂くことにしました。
次回は、利用者の家族の声もレポートします。
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