「その後の生活」を見据えた退院指導を
千葉駅周辺にポスターを貼るなど 一般の皆様にもPR
基調講演では「祖母と向き合った9年間」 をテーマに、ジャーナリストの小山朝子が 自らの介護体験を語りました
去る9月27日、千葉県看護協会主催、千葉県共催による<第4回訪問看護のつどい「ご存知ですか?"あなたのまち"の訪問看護」>が、千葉駅ビル千葉ペリエホール6階大ホールにて行われました。
当日は「祖母と向き合った9年間」と題して私が基調講演を行いました。講演では祖母が療養病床に入院中、院内感染となったり、褥瘡ができたことや、医師、看護師に対して感じた不安・遠慮なども一因で在宅介護を決めたこと、また、病院から在宅介護へ移行するにあたってのたんの吸引をはじめとする看護指導がいかに重要であるか、さらに、在宅介護が始まってからは、サービスを提供するスタッフが入れ代わり立ち代わり訪問することでストレスが生じたことなど、さらに在宅介護が始まってからサービスを提供するスタッフが入れ代わり立ち代わり訪問することでのストレスなど、患者、利用者の立場からの本音を話しました。
さらに、病院の医師や看護師が在宅医療の現状が見えていない、理解していないことを、実例をまじえて紹介しました。
例えば、こんなことです。
入院中、若い整形外科の医師に「毎週、診察にきてくださいね」と言われたことがありました。しかし、車いすに乗ることさえも困難な祖母にとって毎週通院することは非常に困難なことなわけです。
まず病院へ通うために、寝台付きの福祉タクシーを手配しなければなりません。私の住む地域ではこの福祉タクシーは自治体によるサービスで安く利用することができますが、台数が限られているため予約できないことがあります。民間の救急サービスを利用すると、通常タクシーで1000円で行ける距離が1万円以上かかってしまいます。
病院についたら、待合室で寝台のまま待っていなくてはなりません。いつむせるかわからないので持ち運びができる吸引機をもっていく必要があります。診察が終わったら、急遽また福祉タクシーを手配しなければなりません。さらにタクシーが来るまで待合室で待っていることとなり、祖母はこの移動だけで疲れてしまい、帰宅後、嘔吐したこともありました。
病院で働くスタッフには、病院の向こう側、その人の「生活」を見据えた助言や指導が必要でしょう。
誰もが地域で安心して暮らすためには、病院と診療所、病院と在宅、そして「命の継続をめざす医療」と「生活の継続を目指す介護」が連携をとって、地域の住民をささえる実践が求められると思います。
情報がないまま往診医を決める不安
シンポジウムでは、ジャーナリストであり、介護を行う家族の立場でもある小山朝子が座長をつとめ、「安心・安全な在宅療養生活のために」をテーマに、在宅療養に関わる医師、退院調整に関わる看護師、訪問看護師、介護支援専門員(ケアマネジャー)がそれぞれの立場から発言しました
後半のシンポジウムでは、在宅支援診療所の医師の立場から土橋正彦さん(市川市医師会会長)、退院調整看護師の立場から川田政子さん(社会保険船橋中央病院看護局看護係長)、訪問看護師の立場から長谷川芳代さん(さぎぬま訪問看護ステーション所長)、介護支援専門員の立場から鈴木薫さん(看護協会ちば訪問看護ステーション)が報告を行いました。
市川市医師会では、1996年10月に在宅医療を実践している人に対してインフォーマルなサポートを行う「地域医療支援センター」を開設しました。
土橋正彦さんは同センターの取り組みを中心に報告。
センターでは、往診医・専門医の紹介、吸引器の貸出・メンテナンス・滅菌、医療材料の提供と滅菌、医療機器の貸出、在宅医療関連図書とビデオの貸出・閲覧、保険医療福祉関係者への研修施設の提供、医療廃棄物の適正処理システムの運営などを行っています。
2006年には市川市の在宅医療関連機関のデータベースを作成しました。在宅医療を行う医療機関のみならず、歯科診療所、薬局、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業者を検索できます。
また、訪問看護ステーションとの連携状況、末梢血管点滴、中心静脈栄養、経管栄養、胃ろう、尿カテーテル、人工呼吸器、在宅酸素、褥瘡、疼痛などの医療処置が可能な医療機関、また地理的な情報、連携機関、看取りなどの情報検索もできるそうです。
我が家にきていた往診医は在宅中心静脈栄養法を知らず、祖母が地域の病院からそれをすすめられたときは、相談することができませんでした。そのことで不安も感じました。
しかし、上記のような情報を患者や家族も知ることが出来れば、自分あるいは家族の状態にあった往診医を依頼することができます。
とくに医療の必要性が高い患者は、在宅での療養生活を長く続けていくうえで、どのような往診医に依頼するかは、大きなポイントになります。元気な頃から診察してもらっていた医師がいて、その医師に往診を依頼するのが理想的なのかもしれませんが、その医師が在宅医療に明るいとは限りません。現状では患者が往診医を依頼するにあたって、往診医に関する情報を知る手立てがありません。
さらに、同センターでは今後、医療依存度が高い患者を支える訪問看護ステーションに対して往診医や専門医の紹介や、さまざまな医療衛生材料などの提供といった機能も果たしていきたいとしています。
言葉だけにとどまらない「連携」を
会場には現役の訪問看護師や病院関係者、介護職、学生、一般の方々など多数の人が集まりました。在宅医療機器の展示や訪問看護師による在宅療養相談のコーナーも設けられました
次いで、川田政子さんは、社会保険船橋中央病院の退院調整ケアチームの活動などを中心に報告。同病院では、認定看護師を中心とした看護ケアチームが、褥瘡、家庭看護、化学療法、疼痛緩和、摂食・嚥下、退院調整、保険活動と8つあります。そのなかで退院調整チームは訪問看護師、ケアマネジャー、在宅を支援する事業者と連携を深める意味で勉強会や事例検討会を行っています。
MSW(メディカルソーシャルワーカー)とは、施設や病院の紹介や連絡・調整や社会資源活用に関することで協働しているそうです。
退院後、在宅での介護には踏み切れない、かといって特別養護老人ホームなどは何百人待ちといった現状のなかで、川田さんは、現在の立場を踏まえながらも「声の大きな患者や家族とそうでない患者や家族とで差がある現状」に疑問を呈していました。
長谷川芳代さんは、自ら所長をつとめる、さぎぬま訪問看護ステーションの事例を報告。同ステーションは看護師5名(常勤3名)、PT1名、OT1名、ケアマネジャー2名(常勤1名)、事務1名が勤務しています。訪問看護師がPT、OTのリハビリテーションに関わるスタッフと協力して支援にあたっていることも特徴のひとつです。
医療の必要性が高い患者も少なくなく、人工呼吸器を装着した患者とともに、お花見に行ったケースも紹介されました。このように、医療依存度が高い患者については、保清援助、外出支援などを行う場合もあり、その人らしい生き方の模索をしています。
入院中に不安がある場合は、電話などで相談に応じることもあるといいます。「大丈夫ですよ」と言うだけでなく、その根拠などを一言添えるだけで患者や家族の安心につながるという長谷川さんの助言が印象に残りました。
看護協会ちば訪問看護ステーションで働く鈴木薫さんからは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で呼吸器装着の利用者、脳出血後遺症で独居の利用者2事例の報告がありました。
医師とケアマネジャーのコミュニケーションという側面においては、同じケアマネジャーでも基礎職が医療職か介護職かなどによって温度差がある現状もあるようです。
また、訪問看護師と訪問リハビリを提供するPTが協働でリハビリテーションを進める際には、ケアカンファレンスの場で話すだけでなく、実技をして確認しながら情報交換を行うこともあるそうです。
上記のシンポジストが参加し、私が座長となって進行した後半のシンポジウムでは、会場からの発言も寄せられ、スキルアップをはかるべく努力しても訪問看護師や事業所に対して介護報酬上のメリットが得られない現状に対する疑問の声もあがりました。
現在、医療、介護の現場でさかんに言われている「連携」が、言葉だけのもので終わらないためにどういった工夫が求められるかについても考えました。
在宅医療に求められる課題について患者、家族の立場から提言する機会を与えてくださった千葉県訪問看護協会、千葉県の皆様、さらに会場に足を運び、在宅医療の課題にともに向き合っていただいた訪問看護師、在宅医療を支える医師、病院関係者、介護職の皆様など、多くの方々に感謝し、御礼申し上げます。
|