平成17年版高齢社会白書によると、「現在の住宅にそのまま住み続けたい」が36.3%、「現在の住宅を改造し住みやすくする」が21.4%と、半数以上の高齢者が自分の家に住みたいと希望していることがわかります。
もし、車いすの生活を送ることになったら、自宅で暮らし続けるために、まず何を考えますか?
「家の中の段差をなくさなければ」「スロープやリフトもいるかも」「トイレも広くしないと」などと、住宅改修を優先的に考えられる方が多いのでは。
しかし、住宅改修と同時に「身体に合った車いすを処方することも重要」と、アビリティーズ
ライフステーション小田原で福祉用具のモニタリング評価・アドバイスをしている池田さんは説明します。
「身体にマッチングしていない車いすで住宅改修をしてしまい、その方の本当に『できること』を十分に引き出せなくなってしまっている場合が多くみられるんです」。
例えば、標準型車いすを使用している左片マヒのAさん(女性)の場合。
トイレでの排泄を希望し、L型手すりを設置、ドアをカーテンに取り替える改修は済んでいました。
しかし、トイレに移乗することは困難な状態。
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変更後の車いすの全長は650mm、幅は590mmに。
短く小さくなったことで回転半径が小さくなり、廊下のコーナリングも改善。廊下からトイレへの移動、衣類の着脱もラクになりました。
建具の木枠を外せば、さらに改善されると考えられます。
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※池田さんの図をもとに作成(上図は「片手片足こぎ」) |
Aさん宅の廊下幅は700mmで、トイレは突き当たり。トイレの開口幅は600mmでした。使用中の車いすは全長950mm、幅が630mmのため、廊下をうまく曲がれず、十分に便器に近づくことができなかったのです。
しかも、車いすがAさんの身体に合っていなかったため、変形や前ズレをおこしてしまい、片手片足こぎもしにくい状態でした。
そこで、池田さんは車いすをタイヤ位置が前後上下に動き、アームレスト高が調整式、フットレストが開閉着脱式の車いすに変更。
さらに、クッションや背張り調整などでAさんの身体にマッチングさせた結果、ご家族にも負担だったトイレ介助が「見守り」程度に軽減されたそうです。
「改修工事をする前に、まず、福祉用具・移乗方法の適合と住環境のマッチングを見直すことが大切です」と池田さんは強調します。
見直しのプロセスには、問題点の原因を洗い出して、使用目的に合う段階的な目標を見通していくことがポイントになります。
「車いすの目的を『使うこと』に限るのではなく、『生活範囲を広げる』ことにまで拡張して考えることが必要です」。
また、その他の福祉用具を併用したり、その特性を引き出してマッチングに近づけようとする視点をもつことも大切。
適合前
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適合後
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骨盤が後傾しやすく背シートが高すぎて胸部が開かない状態。
※介助用標準型
座幅40cmを使用 |
シーティングにより、骨盤が安定。呼吸しやすく、誤嚥の心配もなくなりました。
※モジュール型
座幅38cmを使用
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(掲載写真はご本人の了承を得ています)
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Bさんは、40cm幅の介助用標準型車いすを使用していますが、座幅が広すぎ、肘掛も低すぎたため、右側への側湾が助長されていました(右写真)。
一枚布の背シートのため、円背と側湾の形状を十分に受けることができず、身体は前方へ押し出されて前かがみに。
この状態では、骨や臓器への圧迫が強くなり、呼吸も浅くしかできません。食事の際にも、顔が下を向いてしまうため、ご家族は誤嚥や誤飲を心配していました。
そこで、クッションを前ズレ防止型に変更。肘掛を高めにして、体側サポートを左右に使用し、右側にかかる重さ(圧)を受け止めるようにしました。
さらに、背シートを背中の形状に合わせ、高さを短くして胸が開くように調整したところ、Bさんは誤嚥や誤飲の心配がなくなり、食欲も増したそうです。
そればかりでなく、ADLで立位保持や歩行は不可なのですが、グッと力を入れて歩こうとする、ベッドへの移乗で立ち上がろうとする、食事の際に手が出るようになったなど、自発的な“やろうとする気持ち”が多く表れ始めました。
「生活範囲を広げていくのは適合技術だけでなく、人の思い一つに他ならないということを痛感しています。外出できなかったBさんの顔を覗き込んで『また散歩に連れていってあげられそう』と、暖かくお声をかけたご家族の笑顔が忘れられません」と池田さん。
Bさんの場合、クッションもまたマッチングの相乗効果を発揮しましたが、特性によって厚さも適合範囲も変わるので、安易に選んでしまうと、二次障害を引きおこす要因につながることも。
「クッションを身体状況に適合させてから、車いすを選定・調整するという順序が必要だと思います。福祉用具展示場などで1つでも多くの車いすやクッションに触って、どう座ったらどこが痛かったか、どう直してみたら座りやすかったか、などを体験してみてください」と、池田さんはアドバイスします。
車いすやクッションの高さ・機能性が変わったことに伴い、手すりやスロープに数cmの差が生じ、取り付け位置の再検討が必要になる場合もあります。
これからのリフォームは、まず福祉用具の選定を優先し、それから手すり位置やトイレ、浴室の改修などを考えてみてはいかがでしょうか。
<<“車いすのシーティング”については、コチラもどうぞ>> |
一級建築士で「介護保険で住宅改修」の著者、西村伸介さんは「改修の際は『コーディネート力』のある業者を選んで」といいます。
住宅改修には、いろいろな方法が考えられます。
敷居の段差を解消する場合でも、スロープを設置したり、敷居を撤去したり、床をかさ上げしたり。業者には、どの手段を選ぶのか、また、どう組み合わせるのかなど、コーディネート(計画及び設計)する力が問われるのです。
そればかりでなく、施工業者や福祉用具業者、関係医療機関、介護保険を申請する場合にはケアマネジャーなど、さまざまな職種が関与します。
「往々にして誰がコーディネートし決定するのかの責任が不明確になってしまいます。多職種にわたる関係者の意見を聞きながら、改修の計画をコーディネート(調整)する力も必要です」。
具体的なポイントを挙げてもらいました。
「信頼できる」業者を選ぶポイント |
1.高齢者・身体障害者の住環境にくわしいこと
(手がけた工事件数の多いことが1つの指標になる) |
2.市町村によって違う福祉制度に精通していること
(介護保険以外にも住宅改造費の助成や、日常生活
用具の給付などを知っている) |
3.手間を惜しまないこと
(関係医療機関の意見を聞いたり、市町村の福祉・介
護保健窓口での交渉ができる) |
4.わかりやすい図面や見積書が作成できること
(最終的に決定するのは本人もしくは家族である)
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5.福祉用具・使用部材・機材の種類にくわしいこと
(福祉用具と住宅改修は「環境整備の手段」と考えて
併せて検討できる) |
「このような業者を見つけることは難しいと思いますが、お住まいの市町村の福祉担当課などで、実績のある業者を紹介してもらうのも良い方法の一つです」と西村さん。
また、介護保険を利用している場合、ケアマネジャーに依存しすぎる傾向があるそうです。
「しかし、多くの場合、ケアマネジャーには住宅改修のコーディネート力が備わっているとはいえませんし、本来の業務でもありません。
来年度からは、介護保険の住宅改修が『事前申請制』になる見込み。ますますケアマネジャーの負担が増すと思われます」。
西村さんは「今後は、東京都の一部の区が採用している『住宅改修アドバイザー』のように、行政が“質”の確保をサポートすべきです」と、制度の充実を要望しています。
※建具の敷居段差をなくす(すりつけ板の設置)、廊下や階段に足もと灯を設置するなど、
家庭内事故を未然に防ぐ「予防バリアフリー」は積極的に導入されることをオススメします。 |
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