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羽成幸子 氏
5人の身内の介護に携わった実体験をベースに独自の介護哲学を展開。
「がんばらない介護生活を考える会」賛同者。カウンセラー、ヘルパー要請研修講師、ボランティア研修講師。
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姑のキクさんは寝たきりに憧れていました。寝てばかりいて、1日5回くらいおねしょしていたんですね。服も布団もビショビショなのに、キクさんは「風があるからすぐ乾く」と着替えようとしません。私としては、着替えることが運動になると狙っていましたので、孫をだしにして「においが漂ってくると嫌われるわよ」と、着替えてもらうよう話しました。でも、これで風邪をひいてしまったら大変です。そこである提案をしました。
「おばあちゃん、歳を取ったら気持ちどおりに体が動かないのは当たり前。だから、体と心を分けるという考え方をしよう」
老いた体と心が一緒ですと「おもらししちゃった」と自分を責めたり、切なくなったりするので、心を介護者のほうに持ってきて、老いた体を見守ってあげようよ、と説明したわけです。
具体策は時間でトイレに行くということ。律儀な人だったので、「お、9時だ」と自分から行ってくれるようになりました。
体と心を分けるという考え方の応用編が、おしめも老眼鏡と同じように考えるということです。おしめを使うようになったら人生終わりだなんて考えないで、便利な道具として使う。
実は私、今日おしめをしてきました。まったくわからないでしょ?
もし「おしめを使ってもらいたいんだけどなぁ」という方がいたら、ご自身で実際に使ってみてください。便利な道具を上手に使っていくと、人生広がっていくものではないかなと思いますよ。
私は介護しながら「やさしさ」って何かといつも考えていました。
例えば、「おばあちゃんの好物のお饅頭、持ってきたわよ」。「アンタやさしいね」と食べる。ケーキやお饅頭は持ってくる人も、もらう人も、気持ちのいいものです。ところが、時間が経つとそれは形を変えて排泄物になります。それと向き合う介護の「やさしさ」と、食べ物をあげる「やさしさ」は違うものではないでしょうか。
どうして介護は大変なのか……答えは簡単です。自分のことだって食べたり、飲んだり、出したり、大変なんです。もう1人の命を背負うわけですから大変じゃないわけがない。
生半可なやさしさで介護はできませんよね。
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太田秀樹 氏
1992年より在宅医療の道へ入る。
医療法人アスムス理事長。在宅ケアを支える診療所全国ネットワーク全国世話人、在宅ケアネットワーク・栃木代表世話人、日本整形外科学会認定医
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医療保険と介護保険の違いを簡単に説明しましょう。
例えば、膝が痛くて歩けない場合、病院に行って注射をしてもらったり、リハビリを受けたり、膝の治療をするのが医療保険です。
買い物や家事などの日常生活を援助する、つまり、活動の制約に対して力を発揮するのが介護保険です。
ところが、介護保険というのは極めて小さな生活空間を想定していて、社会参加に対して力がありません。ですから、私は医療の力をもって社会参加できるところまで医療サービスを伸ばしたいと思っています。
在宅高齢者の医学管理上の問題点というのがいくつかありまして、まず、栄養障害「ちゃんと食べていない」というのが一番に挙げられます。老老介護の現場に行きますと、2〜3日前の残り物をレンジで温めて食べている家庭が珍しくないんですよ。
次は脱水です。歳を取るとのどが渇かなくなります。そして腎臓の機能も落ちてきます。むせやすくもなって、よけい飲まなくなります。
脱水は、医学的な問題だけではなく、社会的に困った問題でもあります。例えば、「明日、外出するから水を飲まないようにしよう」と、頻尿や排尿の失敗を恐れて、飲水量を自己調節する――このような生活習慣がよくみられるんです。
羽成さんのお話にもあったように、道具として上手におしめを使うということなどを、医学的な観点からも考えていく必要がありますね。
昨今は、病院か、在宅かで捉えてはいけない時代になってきました。地域での生活が当たり前なように、必要なときに病院を利用して在宅で療養する在宅医療は当たり前。
ですから、病院が地域のICUなんです。デイケアやデイサービス、ショートステイを使ったり、社会資源を利用して在宅で療養するというのが、これからの基本になると思います。
在宅医療を進める者の一人として、最後まで在宅で暮らせるということが当たり前の社会になるよう、努力していきたいと思っています。
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浜田きよ子 氏
母親の介護を契機に、高齢者が使いやすい福祉用具について学び始める。
1995年、高齢生活研究所を設立、高齢者の暮らし用具選びや介護、用具開発などアドバイスを行う。2003年、介護用品や排泄用品のメーカーが賛同し、排泄総合研究所を設立。
著書に「介護をこえて」NHK出版など
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「漏れては困るから」と大きなおむつをしたり、吸収量のいいおむつを使ったりしている方が多いと思います。しかし、本当はちゃんと必要なものを見極めることが必要です。漏れるということを解決するために、おむつだけを変えるのではなくて、その人に何が必要なのだろうかと、いろいろな視点から暮らしを探っていき、排泄ケアを変えていくことが大切なんです。
排泄には、便器や手すり、衣服、ベッド、移動・移乗動作など、多くのことが関係しています。
むつき庵では、カタログや写真を見るだけではなく、排泄に関わるすべてのものを展示し、また実際に試用することができます。つまり、いろいろな動作を検証していくことで、どこに問題があるのかを発見できる場になっているんです。
例えば、ポータブルトイレへの移乗動作。乗り移りが楽にできることで、おむつをしなくてもいいケースがたくさんあります。どんなポータブルトイレがその人に適しているかは、乗り移りだけではなく姿勢保持を考える必要もあるので、多くの種類があれば、いろいろと試すことができます。ちなみに、むつき庵には15台のポータブルトイレがあるんですよ。
また、むつき庵には市販されているものの8割にあたる約250種類のおむつを展示しています。おむつを買って家で使ってみたら合わなかった、このおむつは症状に合っているのだろうか、などの話を聞き、数多くのおむつを見れて、適切な見本を渡せる場所が必要だと思ったんです。
これからの高齢社会は手厚い介護だけではなく、その人らしい暮らしは何であるか――をしっかりと考えなければいけないと思います。その中で、排泄ケアが占めるところは非常に大きいのではないでしょうか。
要は、排泄ケアというのは、単におむつ選びをするのではなくて暮らし全体を見て、その人がどんなものであれば気持ちに負担がなく、介護も楽になるかを考える総合的なケアなんです。
排泄ケアを通して、その方の暮らしの応援ができれば……というのがむつき庵の役割であると思いますし、今までこのような場所がありませんでしたので、いずれはもっと多くの方々と協力して、京都だけではなくいろいろな場所にこういったところができればいいな、と思っております。
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